岳精流日本吟院総本部

十三 駿河湾千本松原に牧水を懐う

o百里…一里は中国では約五百メーター。日本では約四キロ。ここではとても長い意。
o風裏…風の中に。
o漂漂…ただよい飛ぶ様。
 

詩意

 千本松原の緑は美しく長い渚に映え、百里にわたる潮騒は風の中に聞く。
 (牧水の歌のように)白鳥はただよい飛んで、白い羽を染むることなく、旅人はただ静かに海と空の青を眺めやっている。

解説

 歌人若山牧水はこの地で没した。
我々はこの日、牧水の歌をふんだんに吟じた。

 沼津駅を右にして狩野川沿いに歩き、やがて乗運寺に入る
歌人若山牧水とその妻喜志子の墓がある。
「古里の赤石山にましろ雪 わがいる春の海辺より見ゆ       喜志子」
「聞きいつつたのしくもあるか松風の 今は夢ともうつつともきこゆ  牧水」
 牧水記念館があるというので訪ねたが、果たして月曜は休館とのこと。
気を取り直して西へもどると、松原の公園に牧水の歌碑があった。

「幾山川越えさりゆかば寂しさの果てなん国ぞ今日も旅ゆく 牧水」

 五月の海の光は明るい。
延々と松原が続く駿河湾の光景は旅する人の眸を見開かせる。
千本どころでなく何本の松原であろうか。
湘南の海岸よりも雄々しく海も深く感じられる。
 海の青さよ、空の青さよ!
 牧水はこの景勝を愛したのだ。

「白鳥は悲しからずや空の青 海の青にも染まず漂う 牧水」
見つめるだけで牧水の歌が流れるようであった。

堤防は湾曲して、遙か彼方に、うっすらと製紙工場群が見える。
今日の泊まりだ。