岳精流日本吟院総本部

陽三月麗朝芦ノ湖湖畔を過ぎる

o麗朝…晴れた朝o塵寰…俗世間。
o鱗鱗…水が鱗のように波たって見えるようす。
o客顔…旅人の顔o紈素…白いうすぎぬをまとったような富士の意。
o青紗…青色のうすぎぬを広げたような湖水の意。
o漲溢…みなぎりあふれる。o函関…箱根の関所(の跡)。

詩意

 晴れ上がった空に見る富士は俗世間を隔てたように気高い。芦ノ湖は波だつ光が我々の顔を照らす。
 冠雪は白い薄絹、麓の方は青い薄絹のようでまことに美しさが極まりない。この富士山を眺め、盛んな気力を溢れさせながら箱根の関を過ぎてゆくのである。
 

解説

 箱根には旧道が残っており、その道は石が敷き詰めてある。
昔は雨が降ると泥沼となったらしい。
 その旧道は切れ切れである。
途中から階段になると、途端に足が止まってしまい道路にへたり込んでしまう。
畑宿(はたじゅく)では餌場に集まる野鳥が珍しい。

 宿舎に着くと、皆、目を赤くしながらさかんに鼻をかんだ。
花粉にやられたのだ。
私などは床に就くと鼻水がたらたらと流れた。
普段だったらこれで睡眠出来ないところだが、登山の疲れが熟睡させた。
朝、目が覚めると枕は鼻水でぐっしょりである。

 三月二十日七時三十分、二日目は雲一つない晴天の中を出発。
宿舎を出るとやや逆行して箱根神社に詣で、いよいよ三島に向かった。

 芦ノ湖は紺碧の水面が波立って、まるで沖合いの海のよう。
朝の晴れ上がった空の山あいに、真っ白の富士山がくっきりと現れた。
 美しい!
冠雪の無垢の衣の襞(ひだ)がはっきりと見られる。
山頂の稜線には雪が逆巻いているのも見える。
下界はそよ風でも山頂は地吹雪か。
最高の富士を眺めながら、山の朝の空気の中で、自然と気が清清としてくる。