岳精流日本吟院総本部

四十七 尾道に到りて作有り

o尾港…尾道。

o群峰…瀬戸内海に浮かぶ島々の意。

o疊疊…かさなっている様子。

o一水…海全体のこと。

o鱗鱗…水が美しく輝く様子。

o宿鷗…住み着いている鴎。

o龍庭…北九州八幡の龍吟堂。

詩意

八月のたそがれどき、尾道の海辺。万物の活動は今静かにおさまろうとして、夕景色はひとえに深いおもむきを醸し出す。
 瀬戸内海に浮かぶ島々は山のように重りあって私の前に在り、海は一面たそがれ時の茜に輝いて、飛び交う鴎を染めている。
 林山氏が吹く尺八の音は清らかで情あるが如く響きわたり、私が詩を吟じては壮気がみなぎり、まるで愁いなど無いようだ。
 山陽道の長い旅程は未だ尽きず、静かに思うのは我が恩師がいます龍吟堂のこと、それは九州だ。

解説

五日、岡山より倉敷へ。六日は、四時二五分、倉敷を発ち福山へ、広島県だ。
旅前の疲労が取れず、体調がおもわしくない。おまけに痔疾が頭をもたげている。
 何か心許ない気分であるが、気力を出して吟じ歩く。
まだ朝の六時。やがて高梁川を渡る
 ガソリンスタンドで休息した時は、片隅で声を出させて下さいとお願いし吟じた。
スタンドのお兄さん達は当たらず障らずこちらに目をやりながら、忙しく働いていた。

 午後三時前には広島県に入る。
福山の宿泊所に着くと奥本氏が合流した。

 七日四時三〇分、二人で出発。旧山陽道を随分歩いた。
 小さなお堂を老婦人が自分の部屋同然にしてお守りしているのがあった。
話を交わし一時を過ごすが老婦人は客をもてなすが如くであった。
 昼過ぎに尾道のホテルに入る。少し休んで、夕刻海岸に出た。

やがて青山氏がやってくる。
丁度、瀬戸の島と海がうっすらと茜色に包まれる黄昏時だった。
しばし尺八の音に吟だ。未だ私は調子が出ない。
第十節の旅、スタートから三日間。体慣らしにと、距離を短くしたのは救いであった。