岳精流日本吟院総本部

四十二 姫路城

o姫路城…白鷺城とその美しさを称えられる。世界遺産に指定されている。昭和三十一年に大修築が成されている。

高雅…上品で雅やか。

o妍容…美しい姿。

o擬す…なぞらえる。

o蒼天…青空。 

o翠嵐…樹木の青々とした様子。

o星移り物変わる…時が過ぎ、時世景物の変わること。

o干戈…戦。

詩意

 上品でみやびやかな美しさはその名になぞらえていて、青空のもと白鷺城が緑茂れる山に何と清らかなことか。
時が移り世の中が変わって、その白鷺は翼をおさめ、戦(いくさ)を忘れ平和の世に夢うつつ眠っている。
 

解説

奈良の吟友、富山・清水・徳永さん、それに木戸夫妻らと加古川から歩き着いた。
 距離は二〇キロ余であったが、急に歩く女性にはちょっと大変だったろう。
いつもの通り、道の途中到る処で吟じたが、参加者には初めての特異的な体験となる。
岳精会会員と大勢で歩くのはこれが最後である。

 姫路城は美しい。城の美しさが我々の旅の終わりを何よりも明るくしてくれた。
 お掘り際の高い石垣の上の木陰に落ち着き、盛んに吟じ始めた。
我が吟声が届いたのか、お堀の向こうを往来する、小さく見える人達がさかんに手を振ってくれた。
あの人達は遠くから手を振るだけで終わりのご縁なのかと思うと不思議な感じがする。
この五月の空の下、緑爽やかな風に吹かれ、唯々心の和むのを充分に満喫した。

 ささやかな打ち上げをするため駅への通り道にある中華料理店に入った。
注文していると店員さんが我々の衣を見て
「これは何だ?」
 と、話しかけてきた。
青山さんが丁寧に説明する。なにせ横浜から歩いてきたのだから、それだけでも話し甲斐がある。
「ここで吟じたいな!」
 私は一瞬思った。店員さんは
「店長に聞いてくる」
「他のお客さんが了解するなら、良いと云ったよ!」
 と、もうこちらの味方のような口振りであった。
そしてついでに各テーブルへ了解を求めに回った。
「皆さん、了解してくれた!」
 私は席を立ち、食事中のお客さんに対して改めて簡単に挨拶を述べ、吟じることのお許しを請うた。「胡隠君を尋ぬ・高啓」を吟じた。
 お客さんは皆耳を傾け聞いてくれたようだった。
 一緒に歩いた女性の中には、そっと涙を拭う者もいた。
何かしら我々は特別の雰囲気の中にいたようだ。
 吟じ終えて、自分の厚かましさを詫びながら、各テーブルを回った。
お孫さんと食事中のお婆さんは「良い時に参りましたよ」と云った。
若いカップルは「一期一会」と衣に書いてくれた。