岳精流日本吟院総本部

三十四 琵琶湖近江大橋を渡り休憩す

o二月…陽二月。

o漾漾…ただようさま。

詩意

 二月の空は晴れ、琵琶湖の湖水は和らいで、白い鴎はさざ波に浮かんで身をまかせている。
 私は友と比良山の雪景色をずうーっと見ながら歩いて来た。今、美しい岸辺に体を休めて旅の思いに心はもう充分に満たされた……。

解説

 吟行第七節、平成十三年二月十・十一日と二日がかりで彦根より京都へ向かう。
同行一日目は彦根駅で落ち合った青山氏。二日目に坂井氏が合流。
 
 野洲の手前のお好み焼きの店でのこと。
 そのお店は、二十代の若者二人が共同経営して将来に夢を託している。
「横浜から歩いてきたんだ。…詩吟をやりながら」
 と自己紹介した挙げ句、二人の若者に対し吟ずることになる。
「歩いてゆけなければ・武者小路実篤」
  真剣に吟じた。
「イヤーすごいやー!」「かっこいい!」
 と、言ってくれた。
 吟はむつかしいという言葉をよく聞くが、
「吟はかっこいい」という概念を、幼い頃我々は持っていなかっただろうか?!
私は若者が投げかけてくれた言葉で頻りにそんなことを思った。
ともかく、若者とまともに話が通じたことを喜んだ。
「成る程、旅が面白くなってきた」
と、青山氏は言った。
 

「…煙(けむり)は帰帆(きはん)を罩(こ)む矢走(やばせ)の渡(わた)し……」
 と、大江敬香(おおえけいこう)の近江八景で詠われた所は現在矢橋帰帆島という名称の人工島になっている。
この付近で大阪岳精会の徳田龍臥氏と落ち会った。
 四人で長々とした近江大橋を渡ると奇麗な浜が現れた。

 この日も天気に恵まれた。
 海のように広々とした水と、雲が一つ二つ浮かんでいる青い空。
左方遠くには、歩きながら眺められた比良山が白くうっすらと見える。
ずいぶん多くの鷗が岸辺に帯のように連なって群れ、ゆらゆらと平らな波に羽を休ませている。
「…征人容易に郷愁を惹く ・近江八景」
 この光景は長い道のりを歩いてきた私に身も心もくつろがせてくれた。