岳精流日本吟院総本部

十五 松蔭寺に吟ず

o松蔭寺…JR沼津市原駅の東にある。白隠禅師ゆかりの寺。境内に禅師の墓や、岡山の池田侯ゆかりのすり鉢松がある。また渡辺本陣の玄関と茶室が移築されている。
o凱風…初夏のそよ風。    
o空籬…誰もいないかきね。
o澄景…澄みわたった光。
o洒然…汚れやわだかまりが無くさっぱりしている様。
o墀…にわ。o茗寮…茶寮。お寺の茶室。

詩意

  初夏のそよ風が松林を吹き抜け、誰もいない垣根にそよいでいる。清らかな光はさっぱりとして庭いっぱいに降りそそいでいる。
 興に乗じて尺八を奏で、また吟じ、その静寂を侵したと思ったら、思いがけなくもお茶室に居た尼さんを誘い出すことになった。

解説

 松蔭寺は駿河湾を西して、原という駅の手前にある。
初夏の日差しが強いばかりで静かだった。

 本堂前に休息すると、奥本氏はすぐに献笛を始める。
鎌倉を思い出す。
 わたしも長い詩を吟じたくなった。
「自然と人生 徳富蘆花」
 やがて吟じ終えると同時に本堂の木戸がガラリと開いた。
振り向くと尼さんが顔を出し、いらっしゃいと手で招いている。
「勝手に声を出して失礼しました」
「いいからいらっしゃい、いらっしゃい」
 尼さんは奧に入ってしまった。
 ビックリした。どうしよう。
廊下を伝い歩いて案内されたのは囲炉裏のある部屋である。
そこには別の、ご主人らしき婦人が居られ、
「どうぞお座り下さい、お茶でも差し上げましょう」
 と、おだやかにして、従わざるを得ない雰囲気だ。
 小さな茶碗にほんの一口のお茶。
神妙に飲んでみると上品な味がした。
「これはどういうお茶ですか?」
「煎茶ですよ。煎茶でも良い煎茶ですよ」

 このご婦人は、戦争で失った実のお兄さんが尺八をよく愛好されていたそうで、なつかしみを覚えたのだそうだ。
 寺を去る時、住職に御朱印を願ったら、旅衣の背に「南無阿弥陀仏」と大書してくれた。
そして、どうぞお宿で召し上がって下さいと、お菓子まで呉れた。
兎にも角にも、思いがけないご親切に恐縮しながら吉原に向かったのである。
 松蔭寺は駿河湾を西して、原という駅の手前にある。
初夏の日差しが強いばかりで静かだった。

 本堂前に休息すると、奥本氏はすぐに献笛を始める。
鎌倉を思い出す。
 わたしも長い詩を吟じたくなった。
「自然と人生 徳富蘆花」
 やがて吟じ終えると同時に本堂の木戸がガラリと開いた。
振り向くと尼さんが顔を出し、いらっしゃいと手で招いている。
「勝手に声を出して失礼しました」
「いいからいらっしゃい、いらっしゃい」
 尼さんは奧に入ってしまった。
 ビックリした。どうしよう。
廊下を伝い歩いて案内されたのは囲炉裏のある部屋である。
そこには別の、ご主人らしき婦人が居られ、
「どうぞお座り下さい、お茶でも差し上げましょう」
 と、おだやかにして、従わざるを得ない雰囲気だ。
 小さな茶碗にほんの一口のお茶。
神妙に飲んでみると上品な味がした。
「これはどういうお茶ですか?」
「煎茶ですよ。煎茶でも良い煎茶ですよ」

 このご婦人は、戦争で失った実のお兄さんが尺八をよく愛好されていたそうで、なつかしみを覚えたのだそうだ。
 寺を去る時、住職に御朱印を願ったら、旅衣の背に「南無阿弥陀仏」と大書してくれた。
そして、どうぞお宿で召し上がって下さいと、お菓子まで呉れた。
兎にも角にも、思いがけないご親切に恐縮しながら吉原に向かったのである。